窓が開いている「恐ろしい理由」を知ってしまったナッテル氏。
しかし、サプルトン夫人はそんな彼の心境など露知らず、明るく残酷な世間話を続けます。
サキ『開いた窓』
She rattled on cheerfully about the shooting and the scarcity of birds, and the prospects for duck in the winter. To Framton it was all purely horrible.
夫人は、狩猟のことや鳥が少ないこと、そして冬の鴨猟の見通しなどについて、陽気にしゃべり続けた。フラムトンにとって、それは純粋に恐ろしいだけの話だった。
He made a desperate but only partially successful effort to turn the talk on to a less ghastly topic, he was conscious that his hostess was giving him only a fragment of her attention, and her eyes were constantly straying past him to the open window and the lawn beyond. It was certainly an unfortunate coincidence that he should have paid his visit on this tragic anniversary.
彼は、この恐ろしい話題を少しでもマシなものに変えようと必死に努めたが、それは部分的にしか成功しなかった。女主人(夫人)は、自分には心ここにあらずといった様子で、その視線は絶えず彼を通り越し、開け放たれた窓とその先の芝生に向けられていることに彼は気づいていた。この悲劇的な記念日に訪問してしまったのは、彼にとって、確実にあいにくな偶然であった。
“The doctors agree in ordering me complete rest, an absence of mental excitement, and avoidance of anything in the nature of violent physical exercise,” announced Framton, who labored under the tolerably widespread delusion that total strangers and chance acquaintances are hungry for the least detail of one’s ailments and infirmities, their cause and cure. “On the matter of diet they are not so much in agreement,” he continued.
「医者たちは皆、私に完全な安静、精神的な興奮を避けること、そしていかなる激しい運動も控えることを命じる点では一致しております」とフラムトンは告げた。彼は、赤の他人や偶然の知り合いが、自分の病気や体調不良の詳細、その原因や治療法を熱望しているという、かなり広く蔓延した錯覚に陥っていたのだ。「食事の件に関しては、それほど意見が一致していないのですがね」と彼は続けた。
“No?” said Mrs. Sappleton, in a voice which only replaced a yawn at the last moment. Then she suddenly brightened into alert attention—but not to what Framton was saying.
「そうですか?」とサプルトン夫人は言ったが、その声は、土壇場でようやく欠伸(あくび)を抑え込んだようなものだった。それから彼女は、突然ハッとしたように表情を輝かせ、注意を向けた――だがそれは、フラムトンが話していることに対してではなかった。
考察ノート
1. 語彙・表現のポイント
- Rattled on : 「ぺちゃくちゃとしゃべる」「まくしたてる」。車輪がガタガタ鳴るような音を指し、夫人の話がナッテル氏にとって無神経で耳障りなものであることを示唆しています。
- Ghastly : 「恐ろしい」「ぞっとするような」。死を連想させるような不気味さを表す言葉です。
- Delusion : 「錯覚」「妄想」。ナッテル氏が自分の健康状態を他人が知りたがっていると思い込んでいる様子を、サキらしい皮肉たっぷりに描写しています。
2. 構文・英文法のチェック
- He was conscious that… : 「〜ということに気づいていた」。夫人の意識が自分にない(窓の外にある)ことを察知し、彼の不安がピークに達する様子を描いています。
- Labor under the delusion : 「(誤った考えを)抱いている」「〜という錯覚に苦しむ」。好ましくない考えに囚われている際によく使われる定型表現です。
3. 当時の背景と皮肉
- 悲劇の記念日(Tragic anniversary) : ナッテル氏は「3年前に男たちが死んだ日」だと思い込んでいますが、読者はこれがヴェラの嘘なのか、夫人の狂気なのか、まだ確信が持てないサスペンスの中に置かれます。
- 欠伸(Yawn)を噛み殺す夫人 : ナッテル氏の真剣な悩み(病気の話)は、夫人にとっては退屈なこと。この無関心さが、あとに続く劇的な展開への絶好のフリ(対比)になっています。
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- 私訳: 本文中の和訳および解説は、当ブログ(havefun3.com)が独自に執筆したオリジナルの著作物です。
- 原作: Saki (H.H. Munro) ‘The Open Window’ (1914)
- 著作権: 本作は著者の没後70年以上が経過したパブリックドメインの原文を使用しています。
