【私訳】名作文学Vol.1:開いた窓(第7回)

ヴェラが語る「悲劇」は、単なる昔話に留まりません。

亡くなった男たちの服装や、最後に口ずさんでいた歌……あまりに具体的な描写が、ナッテルの脳裏に消えない「呪縛」を植え付けていきます。

目次

サキ『開いた窓』

“Poor dear aunt, she has often told me how they went out, her husband with his white waterproof coat over his arm, and Ronnie, her youngest brother, singing ‘Bertie, why do you bound?’ as he always did to tease her, because she said it got on her nerves. Do you know, sometimes on still, quiet evenings like this, I almost get a creepy feeling that they will all walk in through that window—”

「かわいそうな叔母様、あの方たちがどんなふうに出かけていったか、よく私に話してくれました。旦那様は白い防水コートを腕にかけて。一番下の弟のロニーは、いつものように叔母様をからかって『バーティ、なぜ跳ねるんだい?』と歌いながら。叔母様が『その歌を聞くと神経に触るわ』と言っていたからですわ。ねえ、こんなふうに物静かで、しんとした夕暮れ時になると、ときどき、あの方たちがみんなあの窓から入ってくるような、そんな気味の悪い予感がしてならないのです――」

考察ノート

1. 語彙・表現のポイント

  • Bound: 「跳ねる、弾む」。歌の一節ですが、若者の快活さと、戻らぬ日々の残酷な対比となっています。
  • Get on her nerves: 「神経に触る」。神経症の治療(nerve cure)に来ているナッテルにとって、「神経(nerves)」という言葉の響きは、彼自身の不安を強く刺激します。
  • Creepy feeling: 「身の毛もよだつような感覚、気味の悪い予感」。

2. 構文・英文法のチェック

  • as he always did to tease her: 「いつものように叔母をからかうために(歌った)」。過去の習慣を表す $did$ を使うことで、失われた日常の風景をナッテルの脳裏に再生させています。
  • that they will all walk in…: 予感の内容を説明する同格の that 節です。ヴェラが「現在進行形の恐怖」として語っているため、未来を表す will が使われています。

3. 当時と現在の比較(時代背景)

  • ‘Bertie, why do you bound?’: これは当時実在した流行歌(Bertie the Bounder)のパロディだと言われています。こうした具体的な固有名詞を出すことで、ヴェラは自分の嘘にリアリティを持たせています。
  • White waterproof coat: 当時の防水コート(マッキントッシュなど)は、雨の多いイギリスの狩猟には欠かせない装備でした。この「白さ」が、夕闇の中でどのような効果を生むのかが後半の見所です。

[ 権利・ポリシーについて ]

  • 原作: Saki (H.H. Munro) ‘The Open Window’ (1914)
  • 著作権: 本作は著者の没後70年以上が経過したパブリックドメインの原文を使用しています。
  • 私訳: 本文中の和訳および解説は、当ブログ(havefun3.com)が独自に執筆したオリジナルの著作物です。
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