【私訳】名作文学Vol.1:開いた窓(第5回)

静養地の平穏な空気の中に、突如として放り込まれた「悲劇」という言葉。

ナッテルが当惑する中、ヴェラは部屋にある大きな窓を指差します。

目次

サキ『開いた窓』

“You may wonder why we keep that window wide open on an October afternoon,” said the niece, indicating a large French window that opened on to a lawn.

「こんな十月の午後に、どうしてあの窓をあんなに広く開け放しているのか不思議に思われるかもしれませんわね」と、芝生に面して開いている大きなフランス窓を指差しながら、姪は言った。

“It is quite warm for the time of the year,” said Framton; “but has that window anything to do with the tragedy?”

「今の時期にしては、かなり暖かいですからね」とフラムトンは言った。「しかし、あの窓がその悲劇と何か関係があるのですか?」

“Out through that window, three years ago to a day, her husband and her two young brothers went off for their day’s shooting. They never came back.”

「三年前のちょうど今日、あの窓から、叔母の夫と二人の弟たちが一日がかりの狩猟に出かけたのです。彼らは二度と戻りませんでした」

考察ノート

1. 語彙・表現のポイント

  • French window: 「フランス窓」。床から天井まである、ドアのように開閉して外に出入りできる窓のこと。この物語の象徴的なモチーフです。
  • To a day: 「(記念日などが)ちょうど~年前の今日」。ヴェラの語りのリアリティを高める、非常に効果的な一言です。
  • Went off: 「出かけていった」。単に外出するだけでなく、どこか遠くへ、あるいは戻らない場所へ行ってしまったニュアンスを含む。

2. 構文・英文法のチェック

  • Indicating a large French window…: 現在分詞を使った分詞構文。「〜を指差しながら(言った)」という付帯状況を表し、映画のカメラが窓へと向けられるような視覚的な効果を生んでいます。
  • Has that window anything to do with…: have something to do with(~と関係がある)の疑問文。ナッテルがヴェラのペースに完全に乗せられ、自ら真相を問い始めていることがわかります。

3. 背景知識:狩猟とイギリスの秋

  • October afternoon: イギリスの10月は本来肌寒い時期ですが、ナッテルが「暖かい」と答えているのは、ヴェラの「窓が開いている不自然さ」への指摘を、論理的に打ち消そうとする彼なりの社交的な配慮です。
  • Shooting(狩猟): 当時のイギリス貴族や地主階級にとって、秋の狩猟は日常的なレジャーでした。しかし、この日常が「悲劇」に転じる恐怖をヴェラは利用しています。

[ 権利・ポリシーについて ]

  • 原作: Saki (H.H. Munro) ‘The Open Window’ (1914)
  • 著作権: 本作は著者の没後70年以上が経過したパブリックドメインの原文を使用しています。
  • 私訳: 本文中の和訳および解説は、当ブログ(havefun3.com)が独自に執筆したオリジナルの著作物です。
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