ナッテルがこの土地のことを何も知らないと確信したヴェラ。
彼女は、穏やかな風景を一変させるような「ある事件」について語り始めます。
サキ『開いた窓』
“Then you know practically nothing about my aunt?” pursued the self-possessed young lady.
「では、叔母のことは事実上なにもご存じないのですね?」と、その落ち着いたお嬢さんは追及するように尋ねた。
“Only her name and address,” admitted the visitor.
「名前と住所を知っているだけです」と、訪問者は認めた。
“Her great tragedy happened just three years ago,” said the child; “that would be since your sister’s time.”
「叔母の身に大きな悲劇が起きたのは、ちょうど三年前のことですわ」と、その子は言った。「それはあなたのお姉様がいらした後のことになりますわね」
“Her tragedy?” asked Framton; somehow in this restful country spot tragedies seemed out of place.
「彼女の悲劇?」とフラムトンは聞き返した。どういうわけか、この安らぎに満ちた田舎の静養地には、悲劇など場違いなものに思えた。
考察ノート
1. 語彙・表現のポイント
- Practically nothing: 「事実上なにも(~ない)」。ヴェラがナッテルの知識の範囲を冷徹に確認している様子が伺えます。
- Pursued: 「追求した」「追いかけた」。単に尋ねる(asked)よりも、相手を追い詰めるような、意図を持ったニュアンスが含まれます。
- Out of place: 「場違いな」「不似合いな」。穏やかな田舎町(rural retreat)と「悲劇(tragedy)」のコントラストが、ナッテルの違和感を強調しています。
2. 構文・英文法のチェック
- That would be since your sister’s time: 「それはあなたのお姉様の(滞在した)時期より後のことでしょう」。
would beを使うことで、状況を推量しつつ、さりげなく「姉は知らないはずだ」とナッテルに念押ししています。 - In this restful country spot: 「この安らぎに満ちた田舎の場所で」。ナッテルが治療のために求めていた「平穏」を象徴する表現です。
3. 当時の背景と心理
静養地での悲劇: 静養(Rest cure)に来たナッテルにとって、悲劇の話は最も避けたい刺激のはずですが、ヴェラの語り口に抗えず、彼はその物語へと引き込まれていきます。
三年前という絶妙な設定: 姉がいた「四年前」と、現在をつなぐ空白の「三年前」。ヴェラは、ナッテルの持つ情報と現在の状況に矛盾が生じないよう、巧妙に時期を設定しています。
[ 権利・ポリシーについて ]
- 原作: Saki (H.H. Munro) ‘The Open Window’ (1914)
- 著作権: 本作は著者の没後70年以上が経過したパブリックドメインの原文を使用しています。
- 私訳: 本文中の和訳および解説は、当ブログ(havefun3.com)が独自に執筆したオリジナルの著作物です。
