【私訳】名作文学Vol.1:開いた窓(第1回)

サキ(Saki)の傑作短編『開いた窓』を、原文と翻訳、そして時代背景の解説とともに読み解いていきます。

物語の舞台は、静かな田舎の屋敷。

重度の神経症を患い、静養に訪れたフラムトン・ナッテル氏。

彼を待ち受けていたのは、あまりに「落ち着いた」15歳の少女でした。

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サキ『開いた窓』

“My aunt will be down presently, Mr. Nuttel,” said a very self-possessed young lady of fifteen; “in the meantime you must try and put up with me.”

「叔母はまもなく下りてまいりますわ、ナッテルさん」と、十五歳のたいそう落ち着いた様子のお嬢さんが言った。「それまでの間、私で我慢していただかなくてはなりませんね」

Framton Nuttel endeavoured to say something which should duly flatter the niece of the moment without unduly discounting the aunt that was to come.

フラムトン・ナッテルは、これから会う叔母を軽んじることなく、目の前の姪を適度におだてるような、礼儀正しい挨拶をしようと努めた。

Privately he doubted more than ever whether these formal visits on a succession of total strangers would do much towards helping the nerve cure which he was supposed to be undergoing.

内心では、見ず知らずの他人を次々と儀礼的に訪問することが、自分が受けているはずの神経症の治療にどれほど役立つのか、これまで以上に疑わしく思っていた。

考察ノート

1. 語彙・表現のポイント

  • Self-possessed: 「落ち着いた」「冷静な」。15歳の少女ヴェラを形容する言葉として、彼女がこの場の主導権を握っていることを示唆しています。
  • Presently: この時代のイギリス英語では「まもなく(soon)」を指します。
  • Put up with: 「〜を我慢する」。少女が謙遜して使っていますが、実際にはナッテルが彼女のペースに巻き込まれていく予兆とも取れます。

2. 構文・英文法のチェック

  • endeavoured to say…: endeavour は try よりも堅苦しく、努力を要するニュアンス。「失礼があってはならない」とガチガチに緊張しているナッテルの心情がよく表れています。
  • the aunt that was to come: 「これからやってくる叔母」。未来の予定や運命を表す be + to 構文です。
  • the nerve cure which he was supposed to be undergoing: 「彼が受けていることになっている神経症の治療」。社交不安を抱える彼にとって、この訪問自体が苦行であることを示しています。

3. 当時の背景と皮肉

  • Rest cure(安静療法): 当時は「神経を休めるには、都会を離れて何もしないのが一番」と考えられていました。 しかし、ナッテルにとっては見知らぬ人への訪問こそがストレスの源となっています。
  • 苗字の響き: ナッテル(Nuttel)という名前は、英語の “Nut”(変わり者、あるいは少し頭がおかしい) という響きを連想させます。

[ 権利・ポリシーについて ]

  • 原作: Saki (H.H. Munro) ‘The Open Window’ (1914)
  • 著作権: 本作は著者の没後70年以上が経過したパブリックドメインの原文を使用しています。
  • 私訳: 本文中の和訳および解説は、当ブログ(havefun3.com)が独自に執筆したオリジナルの著作物です。
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